1999年の夏、初キューバ一人旅にあたって書いたものです。
結局この一人旅がベースとなり、すっかりシガー漬けの活動の日々を過ごしています。そんなきっかけとなった、私がシガーの世界に入ったエピソードを綴ったものです。まったくシガーを知らない人、興味を持ち出した方に共感していただき、一人でもシガーの世界に入って頂ければ、という観念から書いてみました。(当時)。

今だったら違う文章になっているでしょうね。初心のドキドキしていた気持ち、体当たりしていったあの頃を忘れないで、あの頃の自分と同じような今まさにシガーに興味を持ち出してもどう接していいか、、と一人悩む初心者(特に私自身女性として同性の方)のために、これからもシガーの世界の扉へのご案内役を努めて行きたいと思っています。

2001年7月吉日
シガーサロン・エマーブル主宰 こんの仁姿

こんの仁姿・著('99.夏)

フランス料理店のオーナーシェフの妻である私は、必然的に"マダム"という立場だが、基本的には「わたくしは、マッダムゥよぉ〜ん」という格好はしたくないし、それよりも何よりも実年齢のわりには中身の貫祿がともなわず、アルバイトのおねえちゃん(いえ"パートのおばちゃん"でした)と思われがちですが、"マダム"なんである。そしてソムリエとしてお客様にワインを美味しく提供する仕事もしている。ワインの知識については相変わらず勉強を続けている(ふりをしている)。


■01 「フレンチのマダムがなぜキューバ?」

当然、レストランとは、美味しい食事とワイン、ただお腹を満たすだけではなく、豊かな気分になるような空間を提供する場であるわけで、食後の余韻も大切。だんだんレストランの付加価値の視野を広げていった私は、食後のシガーの贅沢さに注目。それもこれもフランスで、一緒に行った同業者ソムリエ達が三つ星レストランではいつも最後にシガーを楽しんでいた。何度かその光景を見て、回りを見渡せば たしかに他のテーブルでも優雅にシガーで食後の時をゆっくりくつろいでいる...

コニャック地方を訪問したとき、食後に当然コニャックとシガーがでてきた。このたまらない贅沢感...ゆったりとしたゆるやかな時間...日頃の忙しく動き回るめまぐるしい日常は、どこかにいったようだ。

私はフランスでシガーと出会い、某IMPERIAL HOTELのソムリエ佐藤氏からシガーの魅力を教わり、日本に帰ってから1年、そのまま周りにシガーのない環境に一人、シガーとの接近を待ち望んでいた。

そう、まわりにはまだシガーはない、、、に等しい。でも、自分の店でシガーを提供出来るようになりたい、、そのためにはシガーを知ったうえでサービスをしたい、、という思いが膨らんでいき、待ってはいられずシガーバー探検にでた。友人のホテルマンやソムリエ達を誘っては何度かシガーバーに通い、そのうち一人ででかけるようになった。

でももっと知りたい、どこかでセミナーでもないかしら、と日頃思っていると、たまたまダビドフのセミナーを紹介され、丁度勉強している絶好のタイミングだったのでこれに飛びついて参加。私にとってのシガーは、ニューヨークとかで流行っているシガーバーのそれとはちと違う。あくまでも、レストランで過ごす豊かな余韻、食後の贅沢な時間を過ごすための小道具。

私がフランスで感じたたまらない贅沢感を、それを求める方々に優雅に提供してみたい。というと、格好よく聞こえるけど、最初に言ったように私はレストランで働くマダムなのですから、当然なんです。よく言われるのは「え〜!?あなた、葉巻吸うの?日本人女性は似合わないのよね〜」。(それも日本人女性には言われたくない...貴女は何人!?)

あたしは、ファッションで吸ってるんじゃないんだってばぁー!(でも本当に似合わないですけど、、、私。)流行りで吸出した美女達とは違うんだってばぁー!(ちなみに私の周りには勝ち気で目敏い美貌の才女が多く、私がシガーに興味があると知ったとたん、急激にシガーに関心を示し始めた美女達が多いのだ。しかも才女達というのはプライド高いから、私如きに抜かれないよう(なんじゃ?)ひっそりと勉強しだしているらしい。どうぞ、シガーに興味があるなら、勉強じゃなくて、とにかく楽しんでくださいませ。なんか、違う方向にいきそうで、怖い...)

とまあ、余談にそれてしまったけど、とにかく私は 煙(けむり)愛好家でもなく、ファッションでもなく、シガーを楽しむ紳士淑女に優雅にサービスできるようになりたい、のだ。

そのための(レストランでの)サービス・テクニックはやはり一流レストランで実際サービスしていた人に教わりたかった...。なぜなら、当然、私はレストランで働くサービスマンだからだ。おっしゃるとおり、シガーは直接利益を生まないので儲かりません。だから扱わないという経営者も多いけど、私はその付加価値があることで、レストランにもたらす利益をグローバルに考えております。
  
シガーからの直接利益はなくとも、でも、シガーを食後に楽しむことの出来るレストラン、ということは それだけゆとり感を提供したい、くつろいでいただける店作りを考えている、ということで、それが「肴屋(さかなや)」です。(注・肴屋とは私の働くフレンチレストランです)

そして、きっと同じように考えているサービスマンがいるはずだ、と思い、同業者を集めてシガーセミナーを開きたいと考案。そこから話しはすすみ、サービスマンが仕事として身につけたいなら、丁寧な授業を、ということで本格的に12課にわたって学んでいただく「シガースクール」を開講。授業料は高いと言う方がいるかもしれないけど、なんだったら収支明細公開しますけど。なんでボランティアみたいなことを?と言う方がいるかもしれないけど、そこまで私は太っ腹ではありません。飲食界全体にシガーが広まってくれれば相乗効果で少しは埼玉にあるうちの店でもシガーに対するお客様の理解が広まるかなーと。小さいことのようだけど、結構大切なことかと思っているんです。わたくしは...。

そうこうしているうちに、どうにもタバコの産地に行ってみたくなりました。タバコの葉が栽培されているのは冬。でも私は今、行きたくて仕方がない。シガーの銘産地キューバの風に当たりたい、どんな空気、温度、湿度、どんな土なのか、体感してみたいし、風土とそこに暮らす人々を知りたい、特に飲食からみた文化。待ち切れない私は葉っぱのない6月に行くことにした。

関係者はみんな口を揃えて言う。「何で今行くの?あなたは知らないのか?タバコの葉は今ないんだぞ。 しかも今はオフシーズン。なんでオフなのか考えてみなさい。雨期だぞ。スコールがあるぞ」と。解っているわよ、当然。でも、行くんです。どうしてかって?シガーを勉強するのに、葉の栽培、発酵、加工だけではないでしょう。シガーだけ知ってどうするの?シガーを取り巻く環境を知りたいのだ。

その風土をこの身体で実際感じたいんだ。赤い土のキューバで生まれ育った人々がどんなものを食べ、飲んで楽しんでいるのか、娯楽はなんなのか、雨期だって、畑は生きている、その土の下で微生物は活動している。雨期だって、人々は生活している。食べて飲んで歌って踊って、そして働いている。しかもスコールを体験するのもいいじゃない。それこそ現地体験にぴったり。敢えて葉っぱのない畑を見るのもいいし、オフシーズンは観光客やシガーの取材人も少ないから葉巻工場内をゆっくり見ることができる。それに私は、葉のある時期にもまた行くつもりなんだから。そのための下見ってところもあるのだ。 

それにキューバといったら「ラム酒」、そしてカクテル「モヒート」「ダイキリ」でしょう!そうです、私は"ソムリエ"なんですから、酒類も当然興味があるんです。(注・私はソムリエなんです→「私は呑ん兵衛なんです」の方が適切なので訂正)

今回のキューバの旅のテーマは「シガー」「ラム」「モヒート,ダイキリ」「バー,レストラン巡り」そして、「キューバ音楽」これらのテーマで私はキューバでのプログラムを計画していった。そうなんです。グループツアーはないらしく一人旅なんです。しかも言葉が喋れない私は通訳を付けて。明確な目的でプログラムを組むとプロフェッショナルとしての研修旅行というふう。しーかーもー、日本からキューバに行くには普通メキシコに一泊しないと行けないので、これがもったいないと思った私はどうせキューバ行くなら、パリにも寄ろう!と、思い切って、通常とは逆周りのキューバ行き。

は?...パリ?...パリって、おフランスのパリ???なんでフランスに寄るかって?そりゃあ貴方、何度も言うけど私はレストランで働くヒト。でもって目的は「葉巻」を知ること。そう、葉巻を取り巻く環境が今回の旅のテーマですから、葉巻の銘産地国と、葉巻をレストランで優雅に提供する国と、どうせなら両方見たい、と思ったわけです。本当に一人っていうのは、旅慣れない私には不安いっぱいで寂しいけれど、でも声をかけてもさすがにキューバというと皆断わるし、でもそれでもわたしのキューバへの思いは熱くなる一方で、その情熱だけで一人なんて、へっちゃらさー!と、今までにない強気になれたりした。(不安と期待で胸がいっぱい!計画が決定したときは最高の気分になれた)

キューバに行ったことがある数少ない人達は「安心して行ってきて」と言ってくれた。 行ったことない多くの人達は「えぇ〜!キューバ!?こっわ〜い!!気をつけて〜」。キューバを知っている葉巻関係者は「今行くの?あんたも無謀ねー」と言わんばかりの励まし。

「あ〜。期待わくわく。 キューバに行くぞぉー!!」

この後、キューバ体験編、パリ日記編(シガー編、ソムリエ対決編)、恥ずかしいシガー体験編、美女たちの不思議な現象編、こっそり教えてあげたいシガーのしぐさ編、シガー・とってもわかりやい入門編、女から見る葉巻のある光景編、、、等など、いろいろなテーマで綴っていきます。