例えば、もしも代々「箸」を使わないで
育ってきたフランス人
の間で急に「箸」を使って食べることが流行したなら、
彼らフランス人はもしかしたら日本人が見て非常に不愉快な食べ方を
してしまうかもしれません。
でもそれは「箸文化」のない環境で育った彼らにとっては
マナーなんてわからないのが当然です。
そこで、「箸」の使い方を教えるスクールや「箸で食事をする会
(サロン)」なんか登場するかもしれません(笑)。
そういうカルチャーセミナーやサロンの登場によって、
今までなかった環境に新たな文化が早い段階で正しく導入される
わけでしょう。
もう一つ、例を申しますと、
蕎麦やうどんなどの麺類が大好きな日本人にスパゲティが
導入されるようになったのは十数年前ごろのことです。
代々イタリアのパスタの食文化などない環境で育った日本人は、
それを蕎麦やうどんのようにズルズル音をたてて食べていました。
しかしそれは仕方がないことだったと思います。
それまでイタリア料理を食べるという環境が日本には
なかったのですからその習慣を知らないのは当たり前です。
まあ、スパゲティに関しては"食べ方スクール"まではできな
かったにしても、イタリア料理店や海外旅行者による本場の文化
の導入(サロンに相応する)が徐々にあり、昨今ではもう音を
たてて食べる人があまり見かけなくなりました。
しかし、日本にスパゲティが導入されてからマナーある食べ方が
されるようになるのにずいぶん長い年月がかかったのではないで
しょうか。その間、欧米の人はどんなにその音に不愉快な思いを
していたことでしょう。
日本人は蕎麦やうどんの文化がありそれが代々続いているので
子供のときから"音をたてて食べるのが粋"と自然に習得して
いますが、"同じ麺類でもスパゲティのときは音をたてない"
という「使い分け」ができるようになるのに時間がかかったの
は、商品の消費ばかりが先行してその文化を伝える環境がなかっ
たからではないでしょうか。
例えが飛躍しすぎているかもしれませんが、
日本での「葉巻文化の現状」についても、
そうした反省が必要のように存じます。
ナチュラルにこだわる
さて、話を戻しまして、私のレストランの「シガールーム」に
不可解さを持たれたかもしれませんので、
そのご説明を付け加えておきましょう。
その部屋はシガレットを吸う部屋ではなく、シガーを吸う部屋です。
もちろん完全にそうしているわけではありません。
ただ、シガレットの煙の匂いにはシガーとは別の香り成分が多く
含まれているようで、つまり天然のタバコ葉が発酵、熟成の過程で
生じる香り以外に、シガレットには添加された別の成分が多々目立ち
(これが恐らく非喫煙者にとって無意識に感じる「たばこを不快と
する原因」とよく耳にします。)、天然のアロマを愉しむ空間には
その別の成分がぶつかって気になるのです。
どちらも煙に違いないじゃないか、と思われるかもしれませんが、
私どもの店が「自然素材」をテーマにしており、店の造りや
中庭やエントランスの木々、草花やハーブにも相乗効果を期待
しています。例えば料理にも化学調味料は使わず、"なるべく
生産者の顔が見える農産物"などを選び、
そしてそこから生まれる「自然のアロマ」を大切にしています。
ワインも自然の産物です。葡萄だけで造られる発酵品であって
工業製品の飲料とは違います。料理やワインにもシェフや
ソムリエといったプロがそれぞれ選んで提供していますので、
"自然の香り"がこの店のイメージだとお客様に評価されて
いるのです。
よって、必然的にこのシガールームも自然の産物から生れる
香りだけが許される空間となるのです。
なんだか、うるさそうなこだわりの店、恐ろしい店、
と言われそうですが(笑)、決してそんなことはありません。
今注目されている「スローフード」にも通じるものがあり、
慌しい現代人にはこれから一層必要とされている一つでもあると
思います。
時代はこれから様々に多様化されて変化していく、
個人が自分自身を見失わず適材適所で選ぶ時代になっていくで
しょうから、こういう店があってもいいかな、程度の話と思って
お聞きください。
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