二チーナ(こんの仁姿)のコンセプトを書きました。
かなり過激ですがどうしここまでやっているのか、なぜ私が葉巻に関っているのか、不思議がられるので私の素性と考えを綴ってみました。独断と偏見で書いています。あくまでも、「私」と「私の店」のこだわりです。ご了承ください。


■03 「シガーとレストラン」

〜『TASC MONTHLY 2003年4月号 328』 
(編集発行:(財)たばこ総合研究センター)掲載【原稿】〜


ここはフランス料理のレストラン。

葉巻を吸える環境を提供しています。
お客様は決まって尋ねます。
「わー、凄−い! こ、これって 誰の趣味なの? 
 オーナーが好きなの?」
「いえいえ、ここはレストランですからお客様が
 お吸いになりますとき、私どもはサービスをするために
 葉巻をご紹介しています。」
「え?! レストランなのに葉巻を吸っていいの?」
という不思議そうな答え。
我どもは「フレンチレストラン」として経営している以上、
お客様に料理だけではなく、
フランス文化を堪能して頂くことこそが
フレンチレストランの存在理由だとこの仕事にプロ意識を
もっているため、フランス国のレストランに存在する
サービスの提供に努力をしている次第です。
そのため、ワインや専門的な食材知識やノウハウを
プロとして習得していくうちに、食後のサービスの重要性にも
気づくわけです。
葉巻を食後酒と共に嗜んでくつろいでいただく
本格的なレストランにしたい。
そのためにメートル・ドテル業務とソムリエの肩書きを持つ私は
シガーサービスの技術を身につけなければならない、
と思うようになりました。それが私と「葉巻の世界」の出会いでした。


ところで、私のレストランは


天井も高くゆったりした造りですが、喫煙をご遠慮願っています。
昨今はどちらかというとその煙を不快に思う方が多くなっている
ように見受けられるからです。
喫煙を希望される方には、周囲のお客様が食事をお済みであることや
混み具合の状況に応じて、灰皿をご用意したり、禁煙を促したり
臨機応変に対応しています。
もちろん、最近のお客様はレストランでの食事中の禁煙は
常識のようでこちらから言うまでもないことです。
食事の場でのマナーがなされてきていることを感じるこの頃です。
食事をする場所という観点から非喫煙者を優先していますが、
しかし、喫煙者にとっては、たとえ「シガレット」でも
食後の一腹は美味しいものです。周囲の状況が許す限り、
せめて「食後の一腹はどうぞ。」という姿勢でおります。
非喫煙者にとっては心地好いレストランとなっているようです。
が、ヘビースモーカーには地獄のような空間かもしれません(笑)。

 


(中略)

ある時、ランチタイムにいらした60代くらいのご婦人が
食前からいきなりタバコを吸ってもいいかと尋ねられましたので、
「あいにく皆様食事を始められたばかりですので、、、
他の皆さんの食事がお済になった後でしたらよろしいかと思います。」
と丁重に申し上げたところ、急いで食事を済まされ、
食後にまた「たばこを吸いたい」と訊かれました。
「他のテーブルの方はまだ食事中ですが、どうでしょうか。」
と申しましたら
「おたくは、他にお客が一人でもいればたばこは吸えないの?!」と。
「いいえ、当店では喫煙は構わないのですが、食事しているお客様に
その煙が流れてしまうことは避けられないのです」
と申し上げたのですが、ご理解頂けず
「おたくも気の毒ね!それじゃあお客が来ないじゃない!!」
と言い残して帰られました。
せっかくお越しいただいたのにお楽しみいただけず非常に残念でした。
ですけれど、
なぜ、「自分がタバコを吸いたい」ことを主張するばかりで
「他人が嫌がる理由」をお察し頂けないのか。
接客業として非常につらく考えなければならない場面でした。
私どもレストラン側で、一般常識のレベルでのマナーのことまでを
指摘するのはしのびないものがあります。
私どもはそこまで偉そうに言える立場ではありません。
ですから、完全に言い切るのではなく
「他に食事している方がいますが どうでしょうか?」と投げかけ、
お客様自身にご判断頂いております。
たいていの方はそこで察してくださいます。
喫煙者には気の毒に思いますので、当店では場所を移して
ダイニング以外で灰皿をご用意してさし上げることもあります。
(中庭ですが、、、)   
若い人のマナーの悪さを指摘する風潮がありますが、
子どもは大人を見て育つわけですから、
やはり問題は意外にも年配の方々にあるのでは、、、
と思うワンシーンでもありました。


しかし、風土と民族性に適した固有の素晴らしい文化を

代々受け継いできたわが国も、急速な外来文化の導入にあたって、
それを文化として受け入れる余裕もないまま商品の出回りにおされ、
そのギャップのままマナーが伴わずにきた
(解らないという自覚もなく)、
という現状が実際のところではないでしょうか?
ですから仕方がないのかもしれません。
しかし、意識して時間をかけて、それらを改善する努力を怠っては
なりませんでしょう。未来に期待をしています。

余談にそれてしまいましたが、方法は、そもそも店側に分煙の
システムが導入されれば一番良いのかと思われますが、
しかしそれは換気設備の改善資金、スペースの問題、
伴うサービススタッフ増員(人件費)などハード面での各店での
問題があります。我ども店側にとっても喫煙席、禁煙席を分ける
ことが望ましいのですが、各店でも対応できるかというとコスト
面などの問題もあり、それは難しい現実を抱えております。


ところで、「葉巻」についてですが、

実は私どものレストランには「シガールーム」が存在しています。
食後にはそこに移って中庭の草木や、夜には星空を眺めながら
くつろいで葉巻を愉しんでいただくことができるスペースです。
お客様は不思議がります。「あの部屋はなんですか?」と。
「シガールームです」と答えると、
「?・・・じゃあ、あそこで、タバコを吸おうかな」と。
「ええ、どうぞ。それでは葉巻をご紹介しましょうか?」
「とんでもない!葉巻じゃなくて、このたばこ(シガレット)です」
「あそこはシガールームでして・・・。シガレットではなく、
 シガーを吸うためのお部屋なんです」
と申し上げると、さらなるクエスチョンマークが頭の中を
駆け巡るようで
「…はぁ? 葉巻は吸えて、たばこ(シガレット)は
 吸えないの?!(変な店!!)」 
ここで「へぇーっ?!」のポイントが非常に高くあがります(笑)。
もうすでに"わけがわからない店トップ3"入りです(笑)。
 しかし、フレンチレストランでのひとときを満喫したい
というお客様には、これが大事なポイントです。
葉巻を嗜む方は決して食事中に吸おうとはなさいません。
食後のお楽しみとしているのです。
そのうえ他に食事をしているテーブルがあれば、
煙の流れを考えて葉巻に火をつけることを遠慮なさいます。
同じ空間を過ごす他の方への配慮があります。
ですから、ダイニングと別にシガールームがあるということを
喜ばれるわけです。安心して葉巻を愉しめるのですから。


サービスの意識

しかし、これも先に書きましたとおり、昨今の急速な外来文化の
導入で、やっとワインやフランス料理が一般に浸透してきたのも
ここ十数年のこと。
フレンチレストランでの過ごし方までは、まだまだ日本では
浸透されていないのですから、一般的に当店が不思議に思われる
のも当然のことです。 
これはフランス料理に携わる側の努力如何によるものと思います。
その一員として私どもサービス側も努めているわけですので、
葉巻の存在でお客様を威圧するなどということではなく、
スマートに自然に食後のお楽しみである「シガーを燻らす」ことを
サービスできるような流れを取り入れていきたいと思っています。
もちろん嗜好品ですので、「シガー」の存在をご紹介するだけに
とどめております。その後選ぶのはお客様自身。私はレストラン
サービスの立場から、そういう文化(フレンチレストランでの
過ごし方、あるいはそこから関係するシガーという嗜好品の文化)
を紹介するのが私の立場の務めと認識しています。

もともと、「葉巻」というものはこれまでの日本の生活習慣や
飲食文化には馴染んでおりませんでしたから、代々周りの大人
(父親とか)に葉巻の習慣が少なく、見習う環境に恵まれなかった
わけで、どう接していいかわからないという状況にありました。
マナーの認識のズレが生れるのは致し方のないことです。



例えば、もしも代々「箸」を使わないで
育ってきたフランス人


の間で急に「箸」を使って食べることが流行したなら、
彼らフランス人はもしかしたら日本人が見て非常に不愉快な食べ方を
してしまうかもしれません。
でもそれは「箸文化」のない環境で育った彼らにとっては
マナーなんてわからないのが当然です。
そこで、「箸」の使い方を教えるスクールや「箸で食事をする会
(サロン)」なんか登場するかもしれません(笑)。
そういうカルチャーセミナーやサロンの登場によって、
今までなかった環境に新たな文化が早い段階で正しく導入される
わけでしょう。


もう一つ、例を申しますと、

蕎麦やうどんなどの麺類が大好きな日本人にスパゲティが
導入されるようになったのは十数年前ごろのことです。
代々イタリアのパスタの食文化などない環境で育った日本人は、
それを蕎麦やうどんのようにズルズル音をたてて食べていました。
しかしそれは仕方がないことだったと思います。
それまでイタリア料理を食べるという環境が日本には
なかったのですからその習慣を知らないのは当たり前です。
まあ、スパゲティに関しては"食べ方スクール"まではできな
かったにしても、イタリア料理店や海外旅行者による本場の文化
の導入(サロンに相応する)が徐々にあり、昨今ではもう音を
たてて食べる人があまり見かけなくなりました。
しかし、日本にスパゲティが導入されてからマナーある食べ方が
されるようになるのにずいぶん長い年月がかかったのではないで
しょうか。その間、欧米の人はどんなにその音に不愉快な思いを
していたことでしょう。
日本人は蕎麦やうどんの文化がありそれが代々続いているので
子供のときから"音をたてて食べるのが粋"と自然に習得して
いますが、"同じ麺類でもスパゲティのときは音をたてない"
という「使い分け」ができるようになるのに時間がかかったの
は、商品の消費ばかりが先行してその文化を伝える環境がなかっ
たからではないでしょうか。
例えが飛躍しすぎているかもしれませんが、
日本での「葉巻文化の現状」についても、
そうした反省が必要のように存じます。


ナチュラルにこだわる

さて、話を戻しまして、私のレストランの「シガールーム」に
不可解さを持たれたかもしれませんので、
そのご説明を付け加えておきましょう。
その部屋はシガレットを吸う部屋ではなく、シガーを吸う部屋です。
もちろん完全にそうしているわけではありません。
ただ、シガレットの煙の匂いにはシガーとは別の香り成分が多く
含まれているようで、つまり天然のタバコ葉が発酵、熟成の過程で
生じる香り以外に、シガレットには添加された別の成分が多々目立ち
(これが恐らく非喫煙者にとって無意識に感じる「たばこを不快と
する原因」とよく耳にします。)、天然のアロマを愉しむ空間には
その別の成分がぶつかって気になるのです。
どちらも煙に違いないじゃないか、と思われるかもしれませんが、
私どもの店が「自然素材」をテーマにしており、店の造りや
中庭やエントランスの木々、草花やハーブにも相乗効果を期待
しています。例えば料理にも化学調味料は使わず、"なるべく
生産者の顔が見える農産物"などを選び、
そしてそこから生まれる「自然のアロマ」を大切にしています。  
ワインも自然の産物です。葡萄だけで造られる発酵品であって
工業製品の飲料とは違います。料理やワインにもシェフや
ソムリエといったプロがそれぞれ選んで提供していますので、
"自然の香り"がこの店のイメージだとお客様に評価されて
いるのです。
よって、必然的にこのシガールームも自然の産物から生れる
香りだけが許される空間となるのです。
なんだか、うるさそうなこだわりの店、恐ろしい店、
と言われそうですが(笑)、決してそんなことはありません。
今注目されている「スローフード」にも通じるものがあり、
慌しい現代人にはこれから一層必要とされている一つでもあると
思います。
時代はこれから様々に多様化されて変化していく、
個人が自分自身を見失わず適材適所で選ぶ時代になっていくで
しょうから、こういう店があってもいいかな、程度の話と思って
お聞きください。

 


ソムリエとしての発想から

さて、私はソムリエですので、お客様のお好みの料理と
ご予算に合わせてワインをお選びするのが仕事です。
その流れからシガーに合うお酒その他お飲物との
マリアージュ(コンビネーション)を考えるのも私の職業柄
自然な発想なのです。
「シガーに合うお酒は?」と聞かれたら、
それは嗜好品ですのでその方のお好み(と予算)を優先する
ことが何より大切です。答えに正解も不正解もありません。
しかし、レストランサービスの立場としてではなく、
これを別の場で理論的に答えるなら、そのヒントは
それぞれの製造工程を知ることにキーポイントがあります。
自ずと答えが見えてきます。
 実は私は1999年4月からシガースクールの主宰もしており、
たばこ業界の専門家やレストランサービスのプロを講師に
迎えて、シガーと飲料のマリアージュ(コンビネーション)
や、シガーサービス実技、シガー鑑定の理論と方法など、
より専門的なカリキュラムを展開しております。
例えば一般に「シガーにはポート」とよく言われていますが、
ポートワインにもいろいろあるわけで、
それらの製造方法から分析してどのタイプがシガーに最適か、
同じ酒精強化ワインでもマデーラはどうかなど、
比較しながら解説をしております。というのも、それぞれの
酒類の製造工程と、シガーの製造工程、つまり双方とも自然
産物なので、発酵・熟成などのプロセスを知ることにより
理論的に分析できるからです。私どもは愛好家としてではなく、
お客様に販売、サービスする立場、シガーや飲料のプロとして
お客様と接する以上、それらを知る必要があり「絶対これと
これは相性がいい!」という情熱の一点張りだけで売るわけ
にはいきません。そのような押し付けをするのではなく
、それをサービスする以上、その根拠、裏づけがないと、
自信のないサービスということになってしまいます。
 ところで、お酒のことは知っていても葉巻の工程(発酵、
加工、製造)を知らなければ、双方の相性の観点が噛み合い
ません。「ニチーナ・シガースクール」主宰としては、毎年
キューバシガー研修ツアーを企画、実施しています。
スクールでは現地での視察をもとにカリキュラムを編成して
解説しています。
現地に足を踏むことも大切です。

 また、シガーに興味を持ち始めたけれどどう接していいか
わからないという方を対象に、シガーの世界の扉までご案内
する「シガーサロン」も平行して開催しています。
どの活動にも共通している私のコンセプトは、
先の「箸」や「スパゲティ」の例え話に言えることです。
 つまり、葉巻もこのまま「商品」の消費だけ右肩上がりに
伸ばすのではなく、その知識(習慣・文化的背景の情報・
マナー)も伴って供給しなければ、本当の意味での普及に
ならないと思われるからです。
 もちろん、誰もが周知の通りたばこ業界のこれまでの
普及活動のご尽力には尊敬の念を抱いております。
それがあってこそ、今の私たちがあることに感謝しております。
そして、さらに販売業ではない立場からの普及活動を通せば、
もっとシガーに興味を持たれる人が増えることでしょう。
趣味・嗜好に加えて、販売業とサービス業が協力し合えば
この世界が繁栄するのでは・・・。
 例えばワイン業界も、<楽しみ方、選び方、知識、マナー
など>は販売業以外の分野(多くのワインスクールや
ワイン会があり、また、資格制度やサービス側のメディアの
登場など)により一般に多く知れ渡り活性化された実例も
あります。だからこそ消費も増えたのです。
シガー(タバコ業界)をワインと一緒にしないでくれ、
と言われてしまうかもしれませんが、飲食サービス業界の
側面でこの「葉巻」と接している立場から、レストラン上での
葉巻の接し方、マナーなどをご案内したいと思っていて、
なぜか4年間(※2004年現在で6年目)もスクールもサロンも
続けているのです。
もしもこのまま秩序なく喫煙習慣が普及されては実際困るのは
レストラン側ですからね(笑)。
しかし、この大切な誌面をお借りして本当に生意気なことを
綴って申し訳ありません。
格好つけたタテマエをいかにもという風に言ってしまいましたが、
本当のところは葉巻を知るために1999年に一人でキューバに
渡ってから、葉巻というよりキューバにはまってしまったので、
この経験を生かし多くの人にこの素晴らしさを伝えたい、
そのために関わっていたい、というのが本音かもしれませんね(笑)。

多くの人にとってシガーが豊かなひとときを感じてもらえるもので
ありますように。。。

以上